×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

GIDアーカイヴ。高校生の頃。

◇放課後、部活にて。◇

これは私の高校生時代のお話です。

ある土曜日の放課後、私はブラスの先輩達とある教室にいました。スティックを使ってのリズム打ちの練習中のこと。そこにいたのは、二人の三年生と一人の二年生(全て女子)、そして一年生の私。

それぞれのパートのリズムを刻む、机を叩く音だけが響いていました。

ふと、廊下の窓の隙間から覗く、中年の女性の影。それはやがて入り口の方に回り、教室のドアが無造作に開けられました。

「あんた達、ここで何してるの?」

荒い声に不規則にフェードアウトしていくリズム。中年女性は特に部屋を見渡すこともなく、なぜか私の方だけを向いていました。

思わず回りを見回し、無言の私。彼女は私の方に近づいて来て、質問を繰り返します。

「ね、あんた、何してるの?」

「え?部活、、、ですけど?」

状況の掴めない私はただ戸惑うばかり。

「ブラスバンドの練習してるんですけど、、、あなたは?」

先輩が横から口を挟みました。彼女はめったに部活にも来ないものの、割と言いたいことをはっきり言うタイプ。

「あんた達、どうして机をそうやって叩くの?顧問は誰?先生がこんなことしろって言ってるの?」

一気にまくし立てるその女性は、先輩を無視して、まるで私一人に怒っているようでした。私は訳がわからず、その顔を見上げながら立っているしかありません。

「とにかく、もうやめなさいね」

その女性は荒い足音で教室を出て行きました。

「なんだったの、あの人?」

もう一人の先輩が話しかけてきました。

「さあ?机を叩くのを止めろって言われたんですけど。。。」

と、首をかしげる私。

「ああ、この下の教室でPTAの会議してるそうだから」

一人で納得して、笑いながら説明する先輩。

「練習してて良いんですか?」

「良いんじゃない?部活なんだから。音が響くみたいだから、教科書でも下に敷けば?」

そう言って、彼女は戻って行きました。

私も戸惑いながら、練習を再開しました。

再び教室に響き始めるステイックの音。異なるパートの不規則なリズムは、また少しずつ大きくなっていきました。

数分後、再び突然開けられるドア。

顔を上げると、さっきの中年女性が立っていました。そして、彼女はまたも私の方に足早で歩いてきました。

「あんたねー、どうしてわかってくれないの?」

彼女はため息をつきながら、喋り始めました。

一方私は、どうしてこの人は私だけに言うんだろう、などと考えていました。

「すいません、私がこの中のリーダーなんですけど」

と、 先輩が中年女性と私の間に割って入ってきました。

「ああ、そうなの?」

微笑みながら先輩の方を向く女性に、彼女は戸惑っていました。

しかし、中年女性は私の方に向きを変え、また強い調子で話し始めました。

「あんた、こんなことしてたら顧問の先生に言うわよ。部活、クビにしてもらうから」

そう言って彼女は意地悪く笑い、私のステイックを掴み、教科書も取り上げました。私は首をかしげながら、思わず先輩に目で助けを求めました。

「こっちを見なさい!」と一喝する女性。

「あの、私がリーダーですから、、、すいませんでした」

頭を下げる先輩に、女性はまた微笑みながら、

「わかってくれれば良いのよ。もう止めなさいね?」

女性は先輩の肩を持って、頭を上げさせました。

しかし女性は、そんな様子を見てほっとする私を睨みつけて指を差し、

「あんた、判ったの!」と怒鳴りました。そして、私が叩いていた教科書の埃を払って、ステイックを掴んでいた手を離しました。

「良いわね!もう絶対に止めなさいよ!」

そう言って、中年女性は教室を出て行こうとしました。

「あの、どうしてこの子に言うんですか?この子、一年生なんですけど」

私の隣にいた別の先輩が、中年女性の背中に声をかけました。

すると、女性は振り返り、数歩戻ってきてまた私を指差しました。

「あんた、男でしょ!こんな時はあんた一人が怒られてれば良いのよ、男なんだから」

そう言って、彼女は教室を出て行きました。

「好き好んで、男やってるんじゃないんです。。。」

私は心の中でつぶやきました。

それから数週間後の土曜日の音楽室。そこには女声だけで練習しているコーラス部と、ドラムセットの練習の準備をしている私だけがいました。

その頃、以前までの女声二部のみから混声四部に変わったコーラス部に、私は先生の強い要請で参加していました。私は中学時代にも、先生のどうしてもという願いでコーラスに参加していたので、断りにくかったのです。

女声のアルトくらいまで出せた声は、声変わりは当然迎えていたものの、それでもまだ音域も広く、(楽譜は読めないのに)音感は良く、声量もある方だったので、むしろ気がつけば入れられていたブラスよりはまだ、コーラスに参加するのは好きでした。

もちろん、男性が少なく女性ばかりの状況も好きでした。ただ、やはりどこか打ち解けられないままでいました。

ふと、うらやましいセーラー服の集団を眼の端で見ていると、何だかみんなでこそこそとじゃんけんか何かをしているようです。やがて、その中で一番負けたらしい一人の女の子が私に近づいて来ました。

「ね、○○君。明日の日曜日ってヒマ?」

「え?」

私はその質問の意図がわからず、しばらく戸惑いました。彼女を見ると、なんだか無理に笑っているようで、笑顔は引きつっていました。そして、「ね、ヒマ?」と彼女は続けました。

私は、きっといつものように友達のいない私をからかっているんだと思い、

「ううん、明日はちょっと。。。」とだけ答えました。

「あ、そうなんだ?分かった〜」

何だか彼女はうれしそうに、女の子達の集団に戻って行きました。

私は何のことだかわからないまま、その週末を普通に過ごしました。

月曜日、私が音楽室に入るなり、コーラス部の女の子に腕を掴まれました。

「ね、昨日どうして来なかったの。みんな待ってたのに」

彼女は明らかに怒っているようでした。

「え?昨日?一体何のこと?」

「何それ?どういうことよ?」

聞き返す私に、彼女の怒りが増したらしく、彼女は何事か一気にまくし立てました。

私はさっぱり判らないながらも状況を推測すると、どうやら昨日コーラス部の親睦会があったそうで、全員参加にも関わらず、私一人だけが来なかったと言うのです。

「いや、でも、それ知らなかったし、誘われても無いんだけど。。。」

私は約100の非難の目にさらされながら、やっとのことで答えました。その中に、土曜日、私に話し掛けた女の子がいました。ふとその子と目が合うと、彼女は気まずそうに目を反らしました。

でも、彼女は思い直したらしく、いきなりしゃべり始めました。

「私、土曜日に誘ったわよね?誘ったもん」

そう言って泣き始めた彼女に、数人の女の子が駆け寄りました。

「誘ったもん、私、誘ったもん」

そう彼女はくり返し、泣き続けるばかり。

私に対する非難のまなざしは、いっそう厳しくなりました。

そんな中、さっき私の腕を掴んだ女の子が言いました。

「男のくせに女の子泣かせるなんて、最っ低!悪いけど、もうコーラス部をやめてくれる?」

「そっかあ、そんなことがあったのね。辛かったわね、可哀想にね」

3つ目の部活(掛け持ちの演劇部)の帰り、O先輩はそう言いました。

彼女もブラスバンド部で、とても私のことを気にかけてくれていました。家も近所だったこともあり、一緒に帰る時には分れ道で自転車を止めて、しばらくお喋りするのが日課になっていました。

彼女がほんとの姉だったら良いのに、私はそんなことを思っていました。彼女は私のカムアウトも真剣に受け止めてくれて、相談に乗ってくれたりしていたのです。

「○○ちゃん(私)、気持ちは女の子なのにね、ほんとに可哀想ね」

気がつくと、私より少し背の高い彼女は、私の髪の毛を優しくなでてくれていました。

私はほんの少しだけ癒された気がしました。

「うん」

私はそう言うのがやっとでした。

「私が、、、みんなに言ってあげようか?○○ちゃんの気持ちは女の子なんだって。うちの部には○○ちゃんと似たような人が、他にもいるんだし、割と大丈夫かもよ?」

「恥ずかしいから、、、いい」

私は彼女を見上げて言いました。

彼女はそのまましばらく、優しく私の髪をなで続けてくれていました。私は自分が男であることや、また涙が出ないことが、ただ悔しくてたまりませんでした。

その後まもなく、私はブラスもコーラスも退部しました。

感想をメールする。スパム対策がしてあります)

GIDアーカイヴ。高校生の頃。

このページのトップへ

Copyright(C) Since2004 えんじぇる。(sad_angel) All Rights Reserved.