GIDアーカイヴ。OLモドキ時代のこと。

◇見た目で完パス、声にドス。◇

同僚のCさんはコスプレイヤーの娘を持つ40代の母親でしたが、彼女は最初から最後まで、私のことを生まれつきの女の子だと思っていてくれたようでした。

私がその職場で働き始めた頃はやはり、

「席を離れる時は、私かTさんに言ってね」

と言われていたので、その時も、私はトイレに行こうと思って、隣の隣のデスクにいたCさんにこそっと囁きました。

「すいません、おトイレに行って来ます」

するとCさんは少し顔を動かして、私にこそっと囁き返してくれました。

「あ、なっちゃったの?」

私は思わずなんと言おうか戸惑ってしまったのですが、何とか「いえ」とだけ答えました。でも、さらにCさんには私の顔色が悪く見えたのか、私が恥ずかしがって否定したのかと思ったようでした。

「大丈夫?持ってる?」

「いえいえ、ほんと、大丈夫です」

もちろん、心の中では、「なれるものなら、なりたいですけど」とつぶやいて、私はいつも通り女子トイレに向かいました。

それからしばらくして、そのうちに私が仕事も慣れてくると、やはりかかってくる取引先からの電話も普通にとれるようになり、私はその職場、その担当の一員として認められるようになりました。

もちろん、その会社での電話のマナーとかは、私はOLとしての経験も勉強もしたことないわけですから、それこそマンガやドラマで見たくらいの、果てしもなく薄っぺらい知識しかなかったのですが。

さらには最初は緊張して高めのトーンで話していたものが、やがては開き直って、私はほぼ地声で話してしまっていたみたいです。もちろん、仕事の忙しさでそれどころではなくなっていたってこともありますが。

そんなある日のこと、ふとCさんはしきりに首をかしげながら、取引先らしい人と電話でしゃべっていました。私はその様子を目の端で見ながら、どうしたんだろうと思っていると、Cさんは最後には少し怒ったように電話を切りました。私は気になったので、イスを滑らせてCさんのそばに行き、話し掛けました。

「どうしたんですか?」

「それがね、以前、相手の人がうちの担当としゃべったらしいんだけど、それが誰だったのかわからないのよ」

「その人、こちらの名前は聞いてなかったんですか?」

「うん、聞いたらしいんだけど、覚えてないって言うのよ。男の人だったって」

「じゃあ、たまたま担当が誰もいなかった時に、他の誰かが電話を取ってくれたんですかねぇ?」

「う〜ん、自分はこの担当だって言ったらしいんだけど。。。それで、私、『うちの担当に男性はいません』って言っちゃったの」

「。。。」

そこで私は気がつきました、それはたぶん私のことなんだろうって。でも、その後もCさんは首をかしげながら、その「男性社員の声」が私の声なんだってことには思いもよらないようで、職場内の男性社員全員にその電話を取っていないか尋ねて回っていました。仕方ないので、私はタイミングを見計らってCさんに話しました。

「もしかして、それって私の声かも知れないです。」

すると、Cさんはまた首をかしげながら言いました。

「え〜?そんなことないと思うわよ?」

少なくとも私には、その時も彼女が、例えば私のためにお芝居をしているとかって感じには、全く思えませんでした。私は、Cさんが最初から最後まで、私のことを生まれつきの女性だと思い続けてくれたことに、感謝と同時に、驚きを感じてしまいました。

また、それと同時に、私の声ってやはりひどいんだなと実感しました。

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