GIDアーカイヴ。ニューハーフ時代のこと。

◇えんじぇるの値段。◇

その日、Kさんは下請けの会社の人たち数人とお店にやってきました。どこでうちのお店のことを知ったのかはわかりませんが、とにかく、Kさんも一緒に来た人たちも、その日が全く初めてのお客でした。

Kさんはその時40代前半、大手建設会社に勤める会社員で、年齢の割りには早い出世で重役になるような人でした。でも、それを鼻にかけるようなこともなく、一緒に来ていた下請けの人も彼をとても尊敬していました。

ちなみにKさんは、普通に奥さんと息子、さらに愛人さんとその娘がいる人でした。それまでニューハーフに特に興味を持ったこともなかったそうです。

やはり私は商売上、ソファに座る彼らの間に入ろうとしたのですが、Kさんはそれをやんわりと拒否したので、私は「ああ、この人はニューハーフとかが嫌いなんだな」って思いました。

私はテーブルをはさんで彼の向い側に座り、当り障りのない話題のおしゃべりを努め、一緒に来ていたノリの軽い下請け会社のおじさんの方を、割りと接待の中心にしました。しかし、Kさんはそれに対して、特に違和感を感じている様子でもなく、静かにお酒を飲んでいるようで、周りが楽しくしてるならそれで良いという感じでした。

それでもやはり周りに気を使ってか、みんなが笑うところでは笑ってくれるものの、Kさんはカラオケだけは全く歌ってはくれませんでした。逆に私に「君が何か歌ってくれ」と言うので、私はあまり気にする事もなく、自分の好きな歌を歌いました。

お店の一番奥の席に陣取った彼らはそこそこのお酒が入り、時間も遅くなってきたので、それぞれの人にそれぞれの女の子(ニューハーフ含む)がつき、なんとなく私はKさんと二人だけの会話になりました。

さて Kさんは急にこそこそし始めたかと思うと、おもむろに財布から何枚かの一万円札を取り出し、向いにいる私にテーブルの下からお金を渡そうとしました。そして、

「俺、初めてで、こういうの、いくらくらいなのかわからないんだけど、なんていうか、、、君の面倒を見たい」と私に言いました。

ちなみにお札は確か8枚くらいあったと思います。それはガラステーブルの上から丸見えでした。私が戸惑っていると、さらにKさんは、「手付けでこれくらいって少ないのか?」と言って来ました。

私はびっくりしました。Kさんもその時初めてだったかも知れませんが、私もそんなことを言われたのは生まれて初めてだったので。私は思わず動揺して、固まってしまいました。

「Kさん、なにやってるの〜?あまりに突然過ぎない?」

そこで茶化すように割り込んできたのは、純女のMさんです。彼女は私より一つ年上で、水商売もそこそこ経験してきた人でしたから、そういう状況にも慣れているらしく、初めての経験で困っている私を見かねて、話し掛けて来てくれたのでした。

「えんじぇるちゃん、ちょっとおいで。Kさんはとりあえず、それしまって」

Mさんは2人にてきぱきと指示をすると、戸惑う私の腕をつかんで奥の控え室にひっぱって行きました。

「えんじぇるちゃん、あれ欲しい?たった8万円くらいが」

「え?」

正直、私は欲しいと思いましたが、そう言ってはいけない雰囲気でした。

ここに来て、やっと私は自分がくどかれたんだとわかりました。言うまでも無く、私にとっては生まれて初めてのことでしたが、お金でっていうことには、ニューハーフという商売上、もうあまり気にはなりませんでした。

「今は我慢しなさい。えんじぇるちゃんだって安っぽい女にみられたくないでしょ?今は我慢してうまく付き合って、これからもっともらえば良いのよ。それにママに見つかっても困るんじゃない?」

少しお酒に酔っている彼女はまくしたてるように言いました。

「うん」

彼女は私より後に入店していたので、ママのことは、私は彼女よりわかっているつもりでした。もし、ママに見つかりでもすれば、まるまるお店の売上げに入れてしまうか、良くて半分くらいをお店の女の子にチップとして割り振ったことでしょう。さらにはそんな場合、たとえ私がもらったにしても、うちのママは純女の子たちに多めに割り振るような人でした。

オーナー自身は特にそうでしたが、その奥さんであるママの方も自分自身がそういうお店のママをしていながら、ニューハーフという存在をまるっきり見下していました。

私とMさんが席に戻ると、既にママが何かに気づいたらしく、いつものごとく馴れ馴れしくKさんと話していました。はたから見ると、とてもぎこちない感じでしたが。どうやらママとしては、お金を払うらしいKさんを放り出して、私とMさんが表からいなくなったことに怒っているようでした。

見事に勘違いしているママがいなくなると、MさんはKさんに何ごとか耳打ちしていました。どうやら、「お金を渡すならママのいない所で渡してやって」とKさんに告げたようでした。

その後、やがてお店の営業が終ると、どこかに車を止めて待っていたKさんは、普段着に着替えた私を拾って、とりあえず二人でラーメンを食べに行きました。

これが私とKさんが初めて出会った時のお話です。その後、しばらく私はKさんとお付き合いしました。

感想をメールする。スパム対策がしてあります)

GIDアーカイヴ。ニューハーフ時代のこと。

このページのトップへ

Copyright(C) Since2004 えんじぇる。(sad_angel) All Rights Reserved.