GIDアーカイヴ。恋愛のこと。

◇ストーカー@〜初恋のその後〜。◇

私が自分勝手にY君との初恋を終わらせようとしていた頃、私と同じクラスにはS君という一人の男の子がいました。彼は、私とY君のおかしな様子を見て何かに気付いたらしく、なぜか私に「接近」してきました。

その頃、Y君はことあるごとに私のクラスに来ていたし、しかし私はそんな彼を避けようとばかりしていましたから、 気がつかない方がどうかしてたのかも知れません。さらにY君が私を、自分と同じ放送委員会に入れようと「画策」していたことも、S君は知っていたようでした。

S君にもともとそんな性嗜好があったのかどうかなんて、私にはわかりませんが、とにかく彼は、まるで男の子が女の子にアプローチするように、私につきまとうようになりました。

S君は私に、別に興味もない自分の話をし続け、「今日、俺んち遊びに来いよ」と、毎日私を自分の家に誘ってきました。私はその度に何か理由をつけて断り続けました。

でも、一度だけS君の誘いを断りきれず、私は彼の家に遊びに行きました。

S君の家で、彼と私は普通におしゃべりし、私が「ギターを弾けるようになりたい」と言うと、「これ貸してやる」と、自分のギターを貸してくれました。しかも、私が持って帰るのは大変だろうと、S君は私の家まで運んでくれました。

でも、私は「あ、別に普通なんだ」と少し拍子抜けした気がしました。ただ、「高校に入ったら一緒にブラスバンド部に入ろう」と、彼は半ば強引に私に約束させましたけど。

それからしばらくして、その年の夏祭りの夜。

その日、私は父親と一緒に夏祭りに出掛けていました。中学2年生にもなって?、と今考えて見ると、確かに父親と一緒に夏祭りに出掛けたのはその年が最後になりました。

一応、神社にお参りをして、たくさんの出店を眺めて歩いているうちに、私は父親とはぐれてしまいました。行き交うたくさんの人と、賑やかな雰囲気の中で、もともと人ごみが異常に苦手な私は、とても不安で足がすくみそうになっていました。

「K君」

そこに、どこからか現れたS君がタイミング良く声をかけてきました。

私は不安な様子を見せまいと、「こんばんわ」とだけ言いました。

「もう帰るのか?」

「う〜ん」

なんとなく二人でそのまま歩いていると、出店の中に、ありきたりの「おばけやしき」がありました。

「入って見ようよ」とS君は私を誘いました。

「怖いからやだ」

私は異常に怖がりだったので断りました。

しかしS君は「んじゃ、俺が手をつないでてやるから」と言って、私の左手を掴みました。私はなんとなくその手を振り払えなくて、でも、「やだ」と拒否しました。それでも、S君はしばらく無理やり私をおばけやしきに連れ込もうとしました。

傍目から見ると、変な光景だったと思います。おばけやしきの前で、手をつないだままもめている二人の男の子って。でも、私の神経は「おばけやしきが嫌だ」ということだけに囚われていましたし、S君も周りの様子などまるっきり気にしていない様子でした。

「んじゃ、どっか行くか」

ふいにS君は諦めたらしく、私の手を引っ張って、どこかに連れて行こうとしました。私は彼のなすがままに連れて行かれました。

気がつくと、川縁の街灯も無い、遠くで祭りの賑わいがかすかに聞こえる辺り。私とS君は言葉も無く、提灯の光がきらきらと反射する流れを見ていました。

ふと、私の視界が暗くなって、、、よく目を凝らして見ると、、、近づいてくるS君の顔がありました。

「え?何?」

いくら鈍感な上にオクテな私でもわかりました。S君はこともあろうに、私にキスしようとしているのでした。

私は思わず、まだ掴まれていたS君の手を振り払って、彼の体を突き飛ばそうとしました。でも、あまりにも非力な私では彼の体を押せず、反対に彼は私の肩を掴んできました。

「な、いいだろ?」

良いわけはありません、たとえ私の気持ちの中で罪悪感が大きいとしても、「別れなくちゃいけない」と思ってはいても、私はまだY君だけのものでしたから。

「いや」

私は顔をそむけて、必死に拒否しました。

「Y君なら、いいのか?」

そう言ったS君の手にもう力は無く、私はそっと彼の手をどけました。

私は彼の質問には答えないまま、その場を離れました。何だか走って逃げるのもしゃくだったので、私はゆっくりと歩いて、出店の並びを抜け、一人で帰りのバスに乗りました。

夏祭りの次の日、学校では驚くことがありました。たまたま私の隣にいたS君は他のクラスメイトに向かって、私を指差しながら「コイツは俺のもんだ」などと言ったのです。

私は「彼は何を言ってるんだろう?」と戸惑ってしまい、とっさには何も言い返すこともできなくて、結局そのまま、否定も肯定もできないままになってしまいました。

お互いの気持ちがあるとは言え、他のクラスから私を追い回し始めたY君と、同じクラスのS君。私に対するいじめも続く中で、私はもう何が何だかわからなくなっていました。考えることが多すぎて、気持ちの整理がつかないままで日々が過ぎていく感じでした。

ちなみに、この少し前の頃から、私はすっかり「ワタシ言葉」になっていた気がします。「オレ」なんて絶対に言えなくて、「ぼく」も言えなくて、なるべく主語を言わないしゃべり方をして、どうしても自分を指さなくてはいけない時には「ワタシ」で通しました。

本当は姉達のように、普通に女の子のしゃべり方がしたかったのですが、やはりまだ私には勇気がなかったのです。だから、この頃の私は極めてどっちつかずの、中途半端なしゃべり方だったと思います。でも特にそのことで先生から咎められることもなく、それを理由にしてのトラブルはありませんでした。って言うか、私の雰囲気が「わかる人にはわかる」状態だったのでしょうけど。

そして、そろそろ進学先を決める時期になりました。

私はY君からもっと離れようとして、彼の志望校を尋ねた上で違う高校に進学することを決めました。もちろん、彼は同じ高校に行くつもりだったらしいので、「どうしてだ?」と私を非難めいた目で見ましたが、私はまた何も答えることができませんでした。

そう、声変わりを越えた私の声はすっかり低い所で落ち着いてしまい、私はそれをY君にだけは決して聞かせたくはなかったのです。

一方、同じ志望校になったS君は「一緒にブラスバンドに入ろう」と私を執拗に誘ってきました。

やがて入試があり、私たち3人は無事に志望校に入りました。

入学してまず私が驚いたのは、S君が自分の分と一緒に私の入部届を勝手にブラスバンド部に出していたことでした。 どうやらあの強引な約束は有効だったようで、しかも同様に、この本人に無断の入部届も有効だったらしいのです。私はなし崩し的にブラスバンド部に入部させられていました。

またそのおかげで、高校でも中学と同じく放送部に入ったY君が、隣りの高校にも関わらず、県大会や合同のイベント等で私の前に姿を現すようになりました。

地元から100キロも離れた街で行われたイベントでも、わざわざ私を探しに来てくれたY君を前にしても、私は素直になれませんでした。本当はうれしかったのに、うれしくてたまらなかったのに、私は声を出せませんでした。もちろん回りの目もあったのですが、私は恥ずかしいと言うことより、やはりY君に申し訳ない気持ちで一杯だったのです。

その頃には、もう私はY君に話しかけられると、顔を真っ赤にして下を向いたまま無言でいるしかなかったのですが、 それが可愛い女の子ならまだしも、私ははっきり言ってブサイクだったので、はたから見たらさぞ奇妙な光景なんだろうなって思ってしまいました。Y君に対しての罪悪感に苛まれてしまっていたのです。

それでもやがて、高校1年の終わり頃に私がM君と出会う頃には、私はブラスバンドをやめていたし、S君の気持ちも冷めたのか、彼と顔を合わせることもなくなり、また同様にY君と会うこともなくなって行きました。

そう、静かに私の初恋は終わっていたのです。

ただ心残りなのは、もしY君にあの時のS君くらいの強引さがあれば、私の中の罪悪感も将来への不安感も振り払えたのでは無いのかな、と思ったりします。

手をつないだり、肩を抱かれたりするだけじゃなく、私はもっともっとY君に近づきたかった、Y君としっかりと強く結ばれたかった。そしてわがままですけど、私はY君にもそう望んでいて欲しかったのです。

もしそうだったなら、私は絶対拒否なんてしなかったのに。

でも悲しいことに、あの頃の私はその気持ちを素直にY君に伝えることもできず、もちろんその「結ばれる」具体的な方法も知らなかったのです。

もし、Y君と結ばれていたら。。。

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