GIDアーカイヴ。大学生の頃。

◇ストーカーA。◇

私と同じその三流大学の英語科に入学して来た学生の中に、一人の男性がいました。彼はなぜだかすごい有名人で、入学して来たばかりだと言うのに、不思議なことに大学中が同じあだ名で彼を呼んでいたのです。ちなみにそれは、某スプラッタ映画の殺人鬼の名前でした。

噂によればですが、彼は前年度まで隣の大学の医学部に通っていたのですが、誰ともうまく行かず大学生活が面白くないので、2年か3年で中退してこの大学に入って来たとのことでした。もちろん、そんなことができるのですから、一応どこかお金持ちの家庭の息子なのだろうと推測されていました。

そして、気に入った人間(多くの場合、当然女の子)には、つきまといを繰り返して困らせているということが噂になっていました。どうやら隣の大学の学生だった頃から、その噂はこの大学まで流れてきていてようでした。

メガネで髪の毛ぼさぼさ、ずんぐりむっくり、それくらいの特徴の学生は山ほどいますが、彼の特徴はその強烈な匂いでした。どこかで特殊な掃除のアルバイトでもしているのかわかりませんが、彼はいつも独特の異臭を放っていました。

私は大学に入学したばかりで、まだ知り合いも誰もいない頃だったので、そんな彼の噂のことなど知る由もなく、少し特徴がある人だなと思うくらいで、同じ新入生として極めて普通に接しようと思っていました。

しかし、入学式も終わって数日後のこと。何かのガイダンスで、大学の敷地外にある別校舎に新入生全員で向かっている時のことでした。

ふと彼は私の横に近づいてきて、

「君って女の下着とか似合いそうだなあ」

彼は私を上から下まで眺め、そう言いました。

ちなみにその頃にはもう、私は自分の性別の違和感が爆発しそうでしたし、実際、自分の部屋では心の性別でいられることに喜びを感じていました。でも、それはまだ「性同一性障害」なんて言葉も世間にはない頃で、私は自分自身に対する罪悪感に苦しんでいて、「隠さなければいけないもの」と思っていました。まして高校の時に好きだった子は隣の大学に入学していて、その想いはまだまるっきり消えていませんでした。

とにかく、件の彼がそんなセリフを吐いた時、周りには同じ新入生がたくさんいて、私は必死で動揺を隠そうと努めました。

彼にはそんな状況も関係ないようで、もちろん私の気持ちなんてものも知るわけもなく、更に話を続けてきました。

「なあ、君、そういうの持ってないの?」

「いや、持ってないよ」

私はその場から逃げ出したい気持ちを抑えながら、何とかそう答えました。

「じゃあ、俺がプレゼントしてやるから、着て見せてくれよ」

彼はそう言って、気持ち悪く笑いました。

私はもうひどく気持ち悪いのと、怖いので何も答えられませんでした。

外を歩いているところだし、彼の声もひどく大きい方だったので、当然その会話は周りの学生に筒抜けだったと思います。さりげなく周りを窺うと、彼らは私のことを言ってるのか、彼のことを言ってるのか、ひそひそ話をしていたようでした。

私は困った人に寄ってこられたものだと思いました。

その一件以来、私は彼と仲が良いと言うことになり、いろいろなプリント類や連絡事項も私から彼に伝えて欲しいと、同級生から頼まれることが多くなりました。、、、って言うか、全て(困)。彼の隣に座っている人でさえ、なぜだか私に「これを彼に渡して欲しい」だの、彼が休みの時には「連絡事項を彼に伝えて欲しい」だの、非常に私は困りました。

だって、私は彼の何も知らないんですから。もちろん、住所も電話番号も。もちろん、別に知りたいわけでもないですし。

しかし、彼の方は他の学生とは違って自分としゃべってくれる私に、尚更興味を持ってしまったらしく、私につきまとうようになりました。

ある時、何かの授業で彼が休んだ時に宿題(大学ですけどね)が出たのですが、彼はいきなり私の家に電話をかけてきました。そして、「今から家に行ってもいいか?」などと言ってきたのです。

はい?彼はどうして私の家と電話番号を知っているのでしょう?もちろん、私は正直気持ち悪いので教えてもいないし、教える気も全くありませんでした。

第一、わからなければ、「休んでた」と教授に聞きに行けばいいわけで、しかも聞く相手が、なぜクラス代表でも何でもない私なの?、、、正直、迷惑でした。その上、なぜ教えてもいない住所や電話番号を知ってるの?

そのことを不思議に思って彼に聞いて見ると、彼は「学生課で聞いてきた」と答えました。もちろん、学生課の職員も「教授に聞きに行けば?」と言ったらしいのですが、彼はかなりしつこく粘ったらしく、最後には学生課の職員が折れて私の住所と電話番号を彼に教えたのだそうです。彼は勝手に「友達だから」と強調したそうです。

そして、彼は電話口で拒否する私に粘り倒し、とうとう家にまで来てしまいました。その上、さっさと用事を済ませて帰って欲しい私に、彼は「うちにはTVが無いから見せてくれ」などと言い始め、玄関でしばらく押し問答になりました。

その日は何とか追い返したものの、それ以来、彼のつきまといは激しくなりました。しかも、一応敬語でしゃべっていた口調もいつのまにかタメ口になってるし(まあ、実際年上なのですけどね)。

講義で私を見つければ、わざわざ私の隣に座ろうとし、食堂でもわざわざトレイを持って私の隣に来ようとしてくるし、 私がキャンパスのベンチでひなたぼっこをしていると、彼は必ず横に座ろうとしてきました。当然、キャンパスでは、「私と彼は仲が良い」と言う既成事実ができようとしていました。実際、後で知ったことですが、そのことを理由に私まで他の学生から距離を置かれていたそうです。

どうりで誰も話し掛けてもくれなくなったわけですね。話し掛けても、皆さん何やら戸惑ってるし。

やがて彼は大学外の喫茶店などでも、私を見つけると近づいてくるようになり、もしかして私をつけてる?と私は疑心暗鬼になる程でした。家にも「今から家に行ってもいいか」と毎日のように電話をかけ続けてくれました。

ある時などは、私のマンションの下の公衆電話(ボックスではなく)から電話をしていると言ってきました。ベランダから覗くと、確かにどしゃぶりの雨の中で彼はそこにいて、私はもう恐怖を感じました。

それからも私はさらに彼を避け続け、友人にも彼に止めるように忠告してもらうと、やがて彼も私に対する興味も薄れたようで、やっと彼は私に近づいては来なくなりました。その後、3年次くらいには彼の姿は大学からも消えていました。

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