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GIDアーカイヴ。学生時代のこと。

◇ 机の中から。◇

今まで、私にも仲の良い友人が何人かいました。今回はそのうちの一人のことを書こうと思います。

それは私が中学生の時の同じクラスの男の子。名前はN君と言って、とても真面目で、評議(クラス)員をそれ以前もそれ以降も務めるような、クラスの誰からも、もちろん先生からもとても信頼されるような子でした。

彼がなぜあまり目立たない私なんかと意気投合したのか、今でも疑問なのですが、強いて私との共通点と言えば、勉強に比べると体育が少し苦手なことだったと思います。

しかし、彼は苦手なこと、困難なことにぶつかっても、それに真っ直ぐ立ち向かって行く人間でした。ですから、その年の夏休みなどは、私は彼に誘われて、毎朝一緒にジョギングで体力作りに励んだりもしました。

途中で辞めたくなった私を、彼は一緒にがんばろうと励ましてもくれて、やがて彼は、私にはとても大切な尊敬できる友人になっていました。

私は彼の次の期間に評議員になったので、クラス運営のことなど、彼に相談に乗ってもらったりもしました。放課後、遅くまで真剣に話し合いもしたものです。そんな時、彼は嫌そうな顔など全くすることもありませんでした。

もちろんそんな彼でしたから、クラスの中には非の打ち所の無い彼のことを苦々しく思う人間もいたようです。クラスの運営やホームルームの進行など、彼は妨害を受けることが良くありました。それははっきり犯人がわかる事件もあれば、疑わしいものの犯人が誰かわからない事件もありました。

彼はほとんど泣き言など言うことも無く、人知れず一人でそういうトラブルに立ち向かっているようでした。誰に相談することもなく。しかし、彼に対する嫌がらせは、彼が誰にも相談しないことを知っていたかのように、静かにエスカレートしていたのでした。

そしてある日のこと、一時間目の授業が始まった途端、彼はイスから飛び上がるように立ち上がり、無言でただ机の中を指差しました。彼にしては珍しく、動揺していて言葉にならない様子でした。

驚いた周りのクラスメイトや先生が近寄ってみると、確かに彼の机の中から何かの異臭が漂っていました。恐る恐る先生が、彼の机の中から少しずつ中身を取り出していくと、そこには何か得体の知れない汚物がありました。そう、その匂いはまさに「汚物」だったのです。

その後、落ち着きを取り戻した彼は、その嫌がらせがその日初めてではなく、数日前から続いていたことを明かしました。彼は誰にも気付かれないように、放課後まで待って、それから一人で机の中の掃除をしていたそうです。しかしその日は、余りに異臭が強かったのか、机の中でその汚物に直接触れてしまったかで、彼は少し驚いてしまったのでした。

その後、「誰か机を洗うのを手伝ってやれ」との先生の指示で、私は真っ先に彼の机をつかみ、彼と二人で机を廊下の水道まで運びました。

私は彼になんて声をかければ良いのかわかりませんでしたが、彼は私が誰よりも先に手伝ったことを喜んでくれているようでした。少なくともその時の私にはそう見えました。

私たちはほとんど無言で彼の机を洗いました。念のためと途中で先生が持ってきた洗剤だか消毒液だかを加えて、タワシでこするとやがて匂いは消えました。そして、なるべくきれいな雑巾で水分をふき取りました。

私たちが彼の机を教室に運び、元の場所に戻すと、先生はドラマでお決まりのセリフを言いました。「みんな目をつむれ」と。自分の席に戻った私も、みんなと同様に素直に目をつむりました。

「先生の胸の中にしまっておくから、犯人は右手を上げろ」

確か先生はそんなことを言ったと思います。

その時、ドラマのような展開に笑ったのか、いつもの「悪ガキ」どもだったのか、かすかに笑い声がしました。それでもしばしの沈黙の中で、教室を歩き回る先生の足音が響いていました。

「みんな目を開けろ」

先生はそう言って、中断された授業を再開しました。

その日から彼に対する同じ嫌がらせはさすがになくなったようで、私は素直に良かったと思いました。しかし、事態は私が思いもしなかった方向に向かっていたようです。

しばらくすると、さりげなくN君の態度がよそよそしくなり、それどころか私に対するクラスメイト全体の雰囲気もおかしくなっていきました。仕方なく私は、同じクラスにいた小学生の頃からの友人に頼み込み、その理由を教えてもらいました。すると、私の知らない所で一つの噂が立っていると言うことでした。

「犯人はY君(私)で、罪悪感があったから手伝ったに違いない」

それを知った時の私は、正直愕然としました。私はN君を大切な友達だと思ってるから、手伝うのが当たり前、と言うか咄嗟に何かしなきゃと思っただけなのに。じゃあ、あの時、ほっとけば良かったのかな、と。

もちろん、更に寂しかったのは、結局N君もその噂を信じてしまったことでした。やがて彼は私とほとんどしゃべることもなくなりました。そして、いつしか噂は他のクラスにまで流れていたそうです。

しかし、あの夏休みに彼と一緒にジョギングや釣りをしたこと、クラス運営で話し合ったことなど、私にとってはやはり良い思い出です。そうそう、彼の趣味は将棋だったので、私はその対戦相手となるために将棋の勉強もしました。

そう、今思えば、あの噂で悩んだことも何もかもひっくるめて、懐かしい思い出なのでした。

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GIDアーカイヴ。学生時代のこと。

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